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絹生糸

 竹竿の継ぎ口や節の部分の補強材には、和竿・丸竹ロッド共に天然絹糸を使用しています。絹糸は、漆と馴染みやすいよう精練作業や染色作業を行う前の生糸を使用します。天然絹糸は、竹や漆との相性が良く又、水や熱(火入れ)にも強い優れた特性を持つ天然繊維です。現在、工房に利用しております家屋でも祖父の代(昭和前期)には、養蚕(カイコの飼育)を行っていたそうですが、現在では国産絹糸の生産は化学繊維や輸入品に押されてすっかり衰退してしまい入手し難い材料と成りつつあります。絹生糸の大きさを表す単位は、ミシン糸などの紡績糸で使われますメートル番手(MC)表示ではなく、重さに起因するデニール(dn)と呼ばれる単位が使われます。竹竿作成で使用頻度が高いのは200デニール前後(ミシン糸50番で約200dn)ですが、小物竿の補強などに使います超極細の30デニール程度から大物竿のリールシートなどを固定する極太の1300デニール位まで、数10種類に及ぶ糸を必要強度によって使い分けています。

小物竿専用生糸

こちらは昔ながらの淡水小物竿専用に使っております生糸です。撚りが殆ど入って無い特殊な糸で、巻いた状態が極めて平滑になり、漆塗りを施した後々、漆の硬化収縮が進んでも糸目が浮いて来難い優れモノの糸です。

大物竿専用生糸

こちらは、海の大物竿用に使っています太径の生糸です。大物用総巻竿の場合は、物干し竿に糸巻きしているような感じで、その使用量は驚くべきもので、小物竿十数年分の量を、一気に使い切ってしまいます。現在のところは主に、海竿の場合は、強度的に優れます撚り糸系統を、淡水竿の場合は、「すが糸」などと呼ばれます、撚りが緩く、巻面が平滑になるタイプの糸を採用しています。特に太径の撚り糸を使用する場合は、強度補強兼、後々の漆の収縮による糸目発生を防ぐ為、糸止め漆後、巻面全面に、サビ付け補強を施しております。(※サビ→地之粉と呼ばれます土と漆を混合した補強材)


絹の生糸は、写真のような綛(かせ)と呼ばれる束ねた状態で流通しておりますので、扱いやすいように糸車を使って竹棒に巻き取り直します。

綛(かせ)から生糸を巻き取る為の「かせ車」も、昔は田舎なら一般的に使われていたそうですが、現在購入するとなると結構高価ですので、ベニヤ板で作成した自家製のものを使用しています。


カセの状態から竹棒に巻き取った状態。糸巻き機を使ってかせ車より竹棒に巻き取ります。

竹棒に巻き取った状態から、安定して糸巻きが出来ますよう、支え台にセットして、竿に糸巻します。


糸巻き機は竹竿作りで使う数少ない機械の一つで、糸巻き量が多くなる総巻き竿の作成などには欠かせない機械です。ミシン用のモートルで、ヘッドの回転を調整しながら竹材に絹糸を巻き付けて行きます。手前のチャックは布袋竹の穂先の補強巻きに使用しています。その他、ガイド部などの細かいところは手巻きで仕上げます。

絹糸の他には、グリップ素材に綿糸を使用しています。化学繊維が全盛の現代でも、やはり天然綿の肌着は吸湿性があり快適であるように、綿製のグリップは、手触りが非常に良い上、水にも強く又、その素朴な質感は竹竿の雰囲気ともよくマッチします。