丸竹フライロッド 基本製法解説
※素材(マテリアル)について
丸竹ロッドの場合は、並継和竿のように中抜き(節抜き)をする必要がないので竹本来の節(中膜)構造の特性が発揮され、中空細身でも曲げや捻れに強い丈夫なロッドを作製する事が出来ます。特に丸竹の中でも、へら鮒和竿に代表される高野竹(スズタケ)は、細身でありながらも肉厚強靱で非常に粘り強く、フライロッドにも絶好の素材であり本工房でも丸竹ロッドのメイン素材として採用しております。トップ部分は高野竹は節詰まりになりますので真竹を削りジョイントして全体のバランスを取って仕上げております。
※火入れについて
丸竹ロッドではブランクの安定性を確保するために「火入れ」作業は、必要不可欠なものであります。火入れは具合は、焼き加減を強くすると竹の硬化度は増して曲がり癖せも出にくくは成りますが反面、焼き過ぎますと粘りや柔軟性は低下し脆くなります。火入れの善し悪しは、竹の特性(粘り)を損なわずして、如何にその特性(硬度・安定度)を高めることができるかに懸かっていると言えるでしょう。
火入れの技法は和竿の場合、生産地や製作者ごと又、竹の種類によりいろいろな流儀がありますが、本工房で作製している丸竹ロッド(高野竹や真竹)の場合は、地元特産の備長炭を用いて、安定度を高める為に出来る限りインターバル(日数間隔)を長く取るようにして、回数的には5回以上、適宜に行っています。
※ガイドについて
ガイドは、丸竹アクションに合わせて主に細軸径のものをチョイスしております。丸竹ロッドを作製する上で、悩ましい事の一つに、ガイドの配置があります。均一な品質の化学素材とは異なり、丸竹の場合は、節部と節間部では強度や曲がり具合が全く異なります。更にガイド竿の場合は、ロッド先端から伝達される力以外にガイド部に直接作用する力もあり、双方から作用する力に対してバランスをとらなければなりません。不均一な構造の素材上に力の作用点(ガイド部)が多くなる丸竹フライロッドでは、丸竹ルアーロッドなどに比べても、ガイドの配置は格段に難しくなり、今後未だ、改良・検討の余地がありそうです。
※ジョイントについて
丸竹フライロッドのジョイント形式は、スリーブジョイントをメインに採用しております。
並継ぎは、比較的丈夫な継ぎ形式ですが、継ぎ手前後で段差が出来る分、パワーロス(強度損失)が生じてしまいますので、ショートレングスでパワーの要求されるフライ&ルアーロッドではやや不利な面があります。インロー継ぎの場合は、継ぎ手前後で同じ口径(強度)の竹を継ぐことができますが、芯材の選定には、難しい面があります。材質が均一のものであれば、断面係数を計算することで容易に相対的な曲げ強度の比較が出来ますので、ブランク部(円筒材)とインロー部(円柱材)の強度関係を試算してみますと、僅かの径差でも強度は大きく低下する傾向にあり、インロー継ぎ手では、丸竹ブランクと芯材を同じ種類(強度)の材質の竹で強度のバランスを取るのは難しい面があります。和竿の場合、芯材に金属やグラス・カーボンなので、補強したりしますが、逆にインロー部が強く成りすぎますと、その前後のブランク部が弱点となってしまいます。継ぎ手部分もブランク部と同等に変位するしなやかな継ぎ手が理想的です。スリーブジョイントは、竹材のみでも強度的には優れていますが、インロー継ぎ同様、ブランク部との強度のバランスを損ねないよう配慮が必要です。
スリーブジョイントのもう一つの長所に、ジョイント部が緩みにくく、抜けにくい点があります。同じロッドパワー(径)を持つインロー継ぎロッドと比べて差し込み部の口径が大きくなる分、接地面(摩擦面)が大きくとれます。緩みにくさは、他にも、差し込み部の長さやテンション(締まり具合)なども影響しますが、概ねスリーブジョイントの方が緩みにくい傾向にあります。
※塗装について
本工房では、丸竹ロッドの塗装は、すべて本漆を採用しております。漆を使用する理由としては、勿論、装飾的な面もありますが、一番の理由は、「竹材との相性の良さ」にあります。天然漆は、主に樹液が主成分であり、硬化後にも透湿性があります。故に、竹に湿気が隠らないと言うか、ビニール合羽ではなくゴアテックスの雨具を羽織っていると言うか、旨く表現するのは難しいですが、天然素材である「竹」は生き物ものですので、漆塗装は、「竹が呼吸し易い」という表現がピッタリなのかもしれません。
一口に漆と言っても、多種多様でその品質や価格は、大きく異なります。釣り竿(ロッド)に使用する場合は、装飾的な目的もありますが、何より補強効果を重視しなけければなりません。したがって、上塗りは勿論のこと、下塗り漆の品質(補強効果)にも気を配らなければなりません。竿(製品)にしてしまうと、外見上で漆の善し悪しを見分けることは難しいんですが、製作段階で、あれこれ取り寄せて比較すると、その品質(乾き方、強度、色艶など)に大きな差があることが分かります。漆の産地は、国産と外国産(主に中国)大別され、国産のものは殆どが岩手県産とされています。同じ産地で同じ名称で販売されている漆でもメーカーの精製方法により随分と品質は異なります。やはり品質に優れているのは、国産漆で、強くて発色や光沢も優れていますが、価格的には概ね外国産より5倍以上は高いです。本工房では、製作コストは高くなりますが、補強効果や耐久性を重視して、上塗り・下塗り共に、吟味した国産漆を採用しております。竹竿が高価な理由として、漆価格(国産漆)自体が高価な事と、何より、漆仕事に要する時間や労力が大きく影響しておりますが、竹との相性・堅牢性・美しさ・質感など、本漆ならではの素晴らしい特性があるからの事とご理解下さい。
ご不明な点等ございましたら、お気軽にご質問ください。
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